これまで組織には不要とされてきた「Playing 遊び」の要素。
実は有効であり、企業組織や仕事のプロセスに
取り入れるアプローチが注目されています。
今回、臨床心理学者/臨床科学者の町澤さやか氏にお越しいただき
株式会社mct 白根CEOが重視する「Playing」をテーマに対談。
心理学的観点を踏まえてお話いただきました。
町澤 さやか
MACHIZAWA SAYAKA
シグナント・ヘルス社
科学・医学部門アソシエートディレクター
臨床心理学博士
異文化心理学と神経心理学を専門とする臨床心理学博士。現在シグナント・ヘルス社では、言語や文化の違いを考慮した国際共同治験の実施をサポート。シグナント入社前は、米国大学院にて臨床心理学の教鞭を取る傍ら、クリニックで心理・神経心理の検査を専門に行う。著書にTransnational Psychology of Women: Expanding International and Inter-sectional Approaches (APA出版)等。
白根 英昭
SHIRANE HIDEAKI
株式会社mct 代表取締役CEO
株式会社大伸社 代表取締役CXO
1988年に株式会社大伸社へ入社し、2002年にはデザインリサーチによるイノベーションサービスを開始。2004年よりm.c.t.事業部(後の株式会社mct)の取締役に就任。著名誌への寄稿や、関西の産官学共同によるソフト技術者の養成塾の講師としても活躍。ペルソナ&エクスペリエンスの研究に情熱を注ぎ、mctのCEOとして今に至る。
目的なく遊ぶことを許される「余白」から
可能性や創造性が生まれる。
白根 英昭)町澤さんはDEIB※のコンサルタントでもおられ、先日mctのメンバーにワークショップを実施いただきました。普段はシカゴで活躍されていますが、USJLP(日米リーダーシップ・プログラム)で京都に来られるということで対談の機会をいただき嬉しいです。USJLPとはどんな目的の団体なのでしょうか?
※多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion)、帰属性(Belonging)の要素を結合し、組織や社会における全ての人々が尊重され、平等に参加し、機会を享受できる状態を作り出すためのアプローチ。
町澤さやか氏 以下敬称略)日米から多彩な専門とバックグラウンドを持つリーダーたちが集って、1+1=3になるような関係を築き、日米関係を発展させていこうというものです。毎年日本とアメリカ交互に場所を移して開催されていて、今年は京都。それこそ精神科医のウィニコット※の言う「Potential space」があって、互いが自然に深く理解し刺激になる密なプログラムです。テーマから離れた二次会、三次会のような企画もあるんですが、活躍するリーダーって本当に体力モンスター!疲れが見えません。 ※ウィニコット(1896-1971):対象関係論の領域で広く知られるイギリスの小児科医・精神科医・精神分析家。
白根)プログラムの中に「遊び」の余白も取り入れられているんですね。心理学的観点から町澤さんにとって遊ぶことの良さは何だと思われますか。
町澤)遊ぶことはCreativityそのものだと、ウィニコットは言っています。子供は遊ぶときに目的なく遊びます。誰かに頼まれたわけでもなく主体性を持って遊ぶわけで、それ自体がCreativityという考え方。ウィニコットは対象心理学の精神科医ですが、子供が成長していく環境について、最初は母子環境の下でPotential Spaceが生まれて、そこから自分の外の世界を探求していくと説いています。
白根)自分があり、外の世界がある。その間にあるのがPotential Spaceであり、可能性や創造を生み出す空間ということですね。面白い。
町澤)そうなんです。この考えは建築などでも応用されていて、スティーブ・ジョブズも偶然の出会いからCreativityやイノベーションが生まれると考え、ピクサーのオフィスに「アトリウム」と呼ばれる、部署の異なる社員や訪問者が自然と集まる中間的スペースを設けています。
白根)先ほど子供は「目的なく遊ぶ」と言われていましたが、企業組織はどうしても目的がありますよね。生産的でなければならない固定観念。Potential Spaceのように目的から離れて遊ぶことは、人間の健康面でも大切なんだと思っています。
町澤)目的を離れて、「損得」から離れて、自主性とオーセンティシティを大事にすることがクリエイティブなんだと思います。
白根)無為な遊びの中ほど偶然が起こりやすい。ただPotential Spaceも恣意的だと急に窮屈に感じてしまいますよね。もっと自分のままでいられるような空間の中に、良い生まれがあるんでしょうね。
“本来の自分”でいられる組織こそ
誰一人として取り残さず、発展できる。
白根)当社でもそんなスペースを作れたらと、意識的に実行しています。
町澤)具体的にはどんなことですか?
白根)メンバーは合宿に行っています(僕は呼んでもらっていません笑)。そこでは目的なく合宿するように・・・と。仕事と遊びは対立概念のように感じますが、実はそうではないんですよね。子供が真剣に遊ぶように、そんな真剣さも大事。
町澤)そうですね、自分の内的部分から湧き上がるモチベーションで遊ぶことが大事です。それこそお金が欲しいからとか、社会的評価が欲しいからとか、外的な理由で行動するとそれはもう、遊びでは無い。
白根)内的なモチベーションが、創造性の源泉。生きる力であり他者と関われる力だと。そこが芯にあることが一番大事だと思っていて、その芯を取り戻すために合宿しましょう、ということが根底にあります。生産のプレッシャーがあると内的なモチベーションってどんどん疲弊するじゃないですか。それを回復させたい。
町澤)確かに。当時DEIBのワークショップでもお伝えしましたが、最近はBelonging(居場所)の重要性が認識されるようになってきていて、Safe and Brave Space、つまり「本来の自分」でいられて、安心して意見を述べたり、失敗を恐れずにチャレンジできたりするような場所が、イノベーションや人材確保に効果をもたらすことが分かっています。
白根)ずっとお話ししている中でBurn Outという言葉が思い浮かんでいたんですが、本来の自分と、その場所に安心と役割があり、本来の自分を認められているというベースがあることが組織にとって重要なんじゃないかなと。
町澤)そう思います!その組織の基盤があれば、自分の意思でそこに居られますよね。本来の自分でいると、Burn Outの危険サインも周りが感じてくれる。
白根)今、Shared Purposeが大事と言われていますが、個人の目的がそれぞれあって、それがShared(共有)されていることが良いんだと思います。Burn Outは放っておくと孤立につながる。
町澤)Burn Outを防ぐ、本来の自分でいられるような環境を創出されているんですね。先日のワークショップで皆さんが表面的に「これを言っておけば良いか」ではなくて、深い、正直なリフレクションをされていることに驚きました。
白根)素直ですよね。本来の自分で居られているんじゃないでしょうか。
町澤)DEIが揃っていても、BのBelongingがなければ、自分の居場所があると思えず辞めてしまったりします。白根さんは社員の目線で、心に寄り添う組織づくりをされているんだなぁと思いました。
白根)学校に近いかもしれませんね。Potential Spaceを作る前提としてBがないと作りにくい。母親と子の関係のような環境の中で、mctは進化していければと考えています。